2022年7月23日(土) の日本経済新聞の夕刊に、直井薫子さんが館長を務められる「ハムハウス」や、各地で広がるシェア図書館についての記事が掲載されていました。

~「プライベート(=私)」でもなく「パブリック(=公)」でもない、本を通してつながる新しい「コモンズ(=共有地)」を育てる試みが全国に広がっていっています~

2022年7月23日(日) 日本経済新聞夕刊への掲載記事「『シェア図書館』個性並ぶ」
2022年7月23日(日) 日本経済新聞夕刊への掲載記事「『シェア図書館』個性並ぶ」

 

日本経済新聞の夕刊(全国版1面)に、今春開館した、直井薫子さんが館長を務める「ハムハウス」や、全国的に広がりをみせる「シェア図書館」の記事が掲載されていました。

 

「ハムハウス」

(埼玉県大宮市)

宮本 恭嗣さん直井 薫子さんが一緒に立ち上げたシェア本棚事業。

2022年4月30日、移転した旧大宮図書館をリノベーションした複合商業施設 「Bibli(ビブリ)」の1階に、『ハムハウス』がオープンしました。 ”ハム”という文字を縦書きに読むと「公」。「公」を新しく捉えなおす試みとしてハムハウスが誕生しました。

デザイナーの直井薫子さんは、ハムハウス内の「ハムブック」の館長で、シェア本棚事業に取り組まれています。

ハムハウスInstagram

直井薫子さんfacebook

 

 

「みんなの図書館 さんかく」

(静岡県焼津市)

本を通じて人とまちがつながる。みんなの参画でつくる。

”シェア図書館” ブームの火付け役。

土肥 潤也(どひ じゅんや)さんが2020年7月にオープン。

みんなの図書さんかく Twitter

全国のみんとしょ ※みんなの図書館さんかくと同じ「一箱本棚オーナー制度」を導入している民間図書館。

 

 

「みんなの図書館 さんかく沼津」

(静岡県沼津市)

沼津信用金庫さんとつくるみんなの図書館。

金融機関空き店舗利活用のモデルとして2021年4月にオープン。

 

 

「まちライブラリー@My Book Station 茅野(ちの)駅」

(長野県茅野市)

「まちライブラリー」の提唱者:磯井 純充(いそい よしみつ)さんが運営。茅野駅前に設けられたにシェア図書館。

※磯井純充さんは、生活シーンのあちこちに本がある状態をつくるといいのではないかという発想から「まちライブラリー」を誕生させました。

まちライブラリー Twitter

全国の「まちライブラリー」

 

 

「豊岡のだいかい文庫」

(兵庫県豊岡市の大開通り)

”本の文化の場であり、ケアの場でもある”というコンセプトのもと、2020年12月にオープンされたシェア図書館。

店主は、医師の守本 陽一(もりもと よういち)さん

本とコーヒーと屋台でまちとケアを紡いでいく取り組み。

だいかい文庫 Instagram

みんとしょネットワークHP「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」

 

 

「大手町 3×3Lab Future」

東京・大手町で三菱地所が運営するサードプレイス「3×3 Lab Future(さんさんらぼ フューチャー)」。館長は神田 主税(かんだ ちから)さん。全国のシェア図書館をつなぐ場(拠点)として、数か月に一度全国のシェア図書館館長同士の交流会を開催。

 


 

直井さん達の活動が新聞に取り上げられてうれしいです。

 

調べてみると、シェア本棚の活動はコモンズ(共有地)論からみるとその立ち位置がわかりやすくなり勉強になりました。

(※竹ノ内祥子「コモンズ(共有地)論からみる現代のシェアライフ」『アド・スタディーズvol,67』2019年)

 

コモンズ論にも関連することですが、私自身が、戸谷家に関係する歴史や本庄地域の郷土史について発信していこうと思ったきっかけのひとつとして、柄谷行人さんの著作を読んだことがあげられます。

 

とりわけ『世界史の構造』『哲学の起源~イオニア的なものとはなにか』『遊動論 柳田国男と山人』『世界史の実験』『小さきものの思想』などを読んだ影響が大きいです。

(※柄谷行人さんについてはこちらもご覧ください。)

 

『世界史の構造』(柄谷行人氏著・岩波書店)
『世界史の構造』(柄谷行人氏著・岩波書店)
『「小さきもの」の思想』(柳田 国男【著】/柄谷 行人【編】・文春学藝ライブラリー)
『「小さきもの」の思想』(柳田 国男【著】/柄谷 行人【編】・文春学藝ライブラリー)

 

それまで、戸谷家の歴史や、本庄地域の郷土史などは、学校の教科書などに取り上げられることもない、地味な話なので、他人に伝えるほどの価値を特に感じていませんでした。

 

しかし、柄谷さんの一連の著作や、民俗学者の柳田国男の著作を読んでいくなかで、小さな地域である本庄の郷土史も、細かくみていくと、面白い場面がいくつもあると感じるようになってきました。

 

柄谷さんの『世界史の構造』以降の著作で有名になった「交換様式の表」は、以下のものです。

 

柄谷行人氏の「交換様式」の図

 

この「交換様式の表」でいうと、Dの部分と、コモンズ(共有地)・シェア本棚の活動が、対応しています。

 

※柄谷行人氏が唱えるこの交換様式Dについては、天才プログラマーで、台湾のIT大臣もなさったオードリー・タン氏も非常に影響を受けて、研究をなさっているそうです。

※例えば、この件に関して詳細はこちらをご覧ください。

 

オードリー・タン氏
オードリー・タン氏

 

僕は大学で経済学を専攻したこともあって A・互酬(贈与と返礼) B・再分配(略取と再分配)(強制と安堵)C・商品交換(貨幣と商品)という概念にはある程度馴染んでいて、関連する本もよく読んでいました。

そんななか、柄谷さんの本を読んで一番びっくりしたのは、交換様式には、上記のA・B・Cの他に、Dがあるのではないかという指摘でした。

 

Dの部分は、非常に表現しづらいのですが、例えば、コモンズ(共有地)や、シェア本棚の活動と関係するもので、柄谷さんの言葉で簡単に表現すると、「Aを高次元で回復したもの」が Dにあたります。

 

「柄谷さんが言っている交換モデルXとは、家庭のような無償の関係の交換モデルA、上司と部下のような上下関係のB、政府内部あるいは不特定多数の人たちが対価で交換する市場のような関係のC、これら三種類に属さない四つ目の交換モデルを指しています。

これは開放的な方法で、不特定多数の人々を対象としつつ、『家族のように何か手伝いを必要とすれば、見返りを求めずに助ける』という交換モデルです。」※オードリー・タン氏「影響を受けた柄谷行人の『交換モデルX』」(幻冬舎ゴールドオンライン)より

 

僕自身は、「A・互酬」も「B・再分配」も「C・商品交換」もどれも社会を成り立たせるうえで重要で、興味深い現象だと思ってきました。また、社会を設計するうえでは、これらの三つがあれば事足りとずっと考えていました。

そんななか、柄谷さんの本を読んで、Dの存在を知り驚きました。

 

直井さんは、「プライベート(=私)」「パブリック=公」ももちろん大事だが、それでは足りない部分を感じられたため、ハムハウスという活動を始められました。

ハムハウスは、小規模なコミュニティ内での「共」的相互扶助から行われた新しい運動だと思います。

僕の理解では、ハムハウスとは、コモンズ(共有地)をつくって、Dの存在を蘇らせる活動だと思いました。

 

その直井さんの活動が、シェア本棚という共通のアイディアでもって、全国につながっている活動だと新聞の記事で知ることができて、とても温かい気持ちになりました。