親戚の吉川照章氏から、故・吉川國男氏の追悼特集が掲載された『野外調査研究 第5号(通巻第30号)』と、『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』を送っていただきました。

※秩父吉田の『龍勢(りゅうせい)』は、平成30年(2018年)に国の重要無形民俗文化財に指定されました。

 

◆『野外調査研究 第5号(通巻第30号)』


 

『野外調査研究』は、野外調査研究会に所属されている会員の皆様が、日頃の調査・研究や、普及・啓発活動等の成果を公表するために発行されている年刊の機関紙です。

 

「野外調査研究会」ホームページ 

機関紙『野外調査研究』についてはこちらをご覧ください。

 

第5号(通巻第30号)では、今年3月に亡くなられた故・𠮷川國男氏の追悼特集「追悼特集─野外研を語り、𠮷川國男会長のご逝去を悼む─」が掲載されていました。

 

𠮷川國男氏と照章氏は、母のいとこにあたります。母は幼い頃、故郷秩父で一緒に遊んだことを思い出して國男氏のご逝去を悼んでおりました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

◆𠮷川國男(よしかわ くにお)先生

『故 吉川國男先生を偲んで』(2010~2014年)PDF11.7MBより

「さわらび通信」HPより・「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」のルポ担当 蕨由美氏作成

 

昭和12年(1937年)埼玉県秩父市に生まれる。1960年早稲田大学文学部史学科卒業。高校教諭を経て、埼玉県教育局・県民部で文化財行政、荒川総合調査等に従事。

埼玉県立博物館学芸部長、埼玉県立民俗文化センター所長、埼玉県文化財保護課長等を歴任。埼玉大学・立正大学・早稲田大学で考古学・博物館学を講義。

著書・論文に『泉福寺』(さきたま出版会)。『関東の住まい習慣』(共著、明玄書房)。『日本の古代遺跡―埼玉県』(共著、保育社)。「東国における条里制の施行形態」「大宮台地のドロツケ」等論文多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

『荒川の風 野外考古学のすすめ』より

 

 

◆「野外調査研究会」様より

 

「<追悼> 野外調査研究会会長の𠮷川國男氏が、本年3月10日に桶川市でお亡くなりになりました(享年83歳)。同氏は昭和12年10月10日に埼玉県秩父市にお生まれになり、早稲田大学考古学研究室で直良信夫教授らの薫陶を受け、考古学・民俗学を中心に幅広い学問分野にわたって調査研究と普及に力を注がれ、文化財保護行政や博物館運営などにも力を尽されました。

当研究会の前身である旧NPO法人 野外調査研究所の創設者・理事長として、また野外調査研究会に移行してからは会長として長い間私たちを導き、多方面にわたりご活躍されてこられました。ここに故人を偲び哀悼の意を表します。偉大な指導者を失いましたが、当研究会では故人の遺志を受け継ぎ、今後も研究会の活動に力を注いでいく所存ですので、皆様のご指導・ご支援をお願いいたします。なお、当会の機関誌『野外調査研究』(第5号)で追悼特集を組む予定です。」(「野外調査研究会」HPより)

 

𠮷川國男氏が執筆した武蔵野地域関係の文献リスト

 (1971年から2009年までに公表された民家・七曲井・条里遺跡・川合玉堂・ニホンオオカミ・農民ロケット・エコミュージアム・棚田・和銅などに関する幅広い調査研究テーマの報告19編です。)

 


◆𠮷川國男先生 ご著書

『荒川の風~野外考古学のすすめ』(𠮷川國男氏著、株式会社さきたま出版会)
『荒川の風~野外考古学のすすめ』(𠮷川國男氏著、株式会社さきたま出版会)

『黒沢尻ヌルシヤの分蜂』(𠮷川和子氏・𠮷川國男氏編著・関東図書)

 

『さきたま文庫43 泉福寺 桶川』(𠮷川國男氏著・さきたま出版会)
『さきたま文庫43 泉福寺 桶川』(𠮷川國男氏著・さきたま出版会)
『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)
『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)

 

𠮷川國男氏は、『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』の第2章・第3章・第4章のご執筆をされています。

 

目次

第1章

秩父吉田の龍勢

歴史形状 / 形状 / 製法 / 打ち上げ

 

第2章

国内各地のバンブーロケット

草薙・朝比奈・米原の龍勢 / 日本の龍勢文化

 

第3章

世界のバンブーロケット

雲南の高昇(中国) / ラオスのバン・ファイ / タイのバン・ファイ / 雲南・ラオス・タイの比較

 

第4章

龍勢・バンブーロケットの謎

メコン川流域と日本になぜあるのか?ルーツは?

 

第5章

広がる国際交流と研究

国際宇宙会議と龍勢 / 秩父吉田ヤソトン会 / 野外調査研究所

 

関東図書株式会社HPより

 


◆秩父の「龍勢祭り(りゅうせいまつり)」について

ChokotabiSaitama YouTubeチャンネル『龍勢まつり【埼玉県公式観光動画】』より

 

「龍勢(りゅうせい)」は、毎年10月の第2日曜日に、埼玉県秩父市下吉田の「椋神社(むくじんじゃ)」の例大祭に奉納する神事として、代々伝承されてきた農民による「手作りロケット」です。龍勢とは、昇天する竜にその姿が似ていることから名付けられたとされます。二十七の流派があり、毎年約三十数本の龍勢が朝から夕方にかけて流派ごとに順々に打ち上げられます。400年以上前から続く伝統行事で、国の重要無形民俗文化財に指定されています。

 

「諸説ある起源は、

1.椋神社縁起に『日本武尊が奉持した鉾より発した光のさまを尊び、後世氏子民が光を飛ばしご神意をなぐさめ奉った。』(要約)と記されています。

2.また『戦国の頃、ノロシ(狼火)から土地の農民が考案し、その後改良された』とも伝えられています。

3.天正3年(1575)に龍勢を打ち上げたという椋神社社伝があります。

が、定かではありません。」(吉田龍勢保存会ホームページより)

 

秩父の「龍勢祭り(りゅうせいまつり)」は、毎年約10万人ほどの見物客で賑わう秋の秩父を代表するお祭りとなっています。※今年(2021年)は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止となりました。

 

・平成9年(1997年)…「埼玉県無形民俗文化財」指定

・平成12年(2000年)…埼玉新聞社の「21世紀に残したい・埼玉ふるさと自慢100選」に選出

・平成23年(2011年)…アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で龍勢が作中の重要な要素として描かれる。

・平成30年(2018年)…「秩父吉田の龍勢」として「国の重要無形民俗文化財」指定

 

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参照)

吉田龍勢保存会ホームページ

秩父観光協会「ぶらっとちちぶ」

Wikipedia「龍勢祭り」龍勢 

 


◆「龍勢」の分類・分布・系譜

~『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(野外研叢書1)より~

 

■日本の龍勢(バンブーロケット)の分類

『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P38より
『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P38より

 

「龍勢(りゅうせい)」は国内では、埼玉県秩父市下吉田の「龍勢」「草薙の龍勢」(静岡県静岡市清水区)

「朝比奈の龍勢」(藤枝市)、「米原の流星」(滋賀県米原市)等、上昇飛行させる「垂直型(上昇型)」の龍勢の他、水平方向に走らせる「水平型」と、勢いよく回転させる「回転型」に分類されています。

 

 

■日本の「龍勢(バンブーロケット)」の分布図

『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P39より
『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P39より

 

日本での龍勢の分布地域は、中部日本(滋賀・愛知・長野・静岡・埼玉・東京・茨城・新潟の8都県)に集中しています

 

 

■日本の「龍勢」の系譜

『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P78をもとに加筆
『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P78をもとに加筆

 

滋賀の米原、甲賀・瀬古は17世紀における関ヶ原合戦のノロシや、忍者の打火炬(うちひこ)の発達タイプと分類できる。大きさが小・中型であり、羽根を矢柄につけていることがその残影であり、その点では長野の清内路(せいないじ)も同タイプである。

 

愛知の刈谷・豊川地方は、徳川家康の出身地三河であり、徳川氏を支えた軍事集団、とりわけ鉄砲隊などが所持していた火器・火薬技術が伝承されたものと推察される。

 

静岡の朝比奈地方では、中世の武将が山間地にあって使用していたノロシの流れと推察される。

 

静岡の草家康の隠居地駿府の軍事拠点を防衛するためのノロシと花火が結びつき、日本武尊の故事もあって発達した龍勢と推測される。支配者を通して龍勢の限定的拡散があったのではないかと興味深い動向が浮かび上がってきた。

 

埼玉の桶川、茨城、新潟の龍勢(流星)および綱火は、徳川氏に仕えて勲功をたてた武将牧野康成・忠成父子、松下重松らが、その知行地に故郷三河地方の火薬文化を持ち込み、祭礼の殷賑策(いんしんさく)とし、あるいは芸術化したものと推察される。

 

吉田(埼玉県秩父市)の龍勢には、今のところ他龍勢の影響を看守することはできないが、今後、北条氏との関係や、天領としての性格から徳川・伊奈氏との関係、越後ノロシ「やせかまど」との関係についても、綿密な調査が望まれる。しかし、現状では吉田の龍勢は秩父地方の伝統的な硝石生産に支えられた中世的なノロシの発展型とみることができる。(P77-78)」

 

 

■アジアの「龍勢(バンブーロケット)」の分布図

『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P70をもとに加筆
『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』(監修:飯島正治氏、編集:山田由美氏 野外研叢書1)P70をもとに加筆
雲南省・西双版納(バンブーロケット)の会場で祭りの神輿に乗る𠮷川先生(2005年4月) ※『野外調査研究 第5号(通巻第30号)』P151より
雲南省・西双版納(バンブーロケット)の会場で祭りの神輿に乗る𠮷川先生(2005年4月) ※『野外調査研究 第5号(通巻第30号)』P151より

 

アジアでの龍勢は、日本以外にも中国の雲南省・タイ・ラオス・ベトナムなど、メコン川流域に分布しています。

 

世界で最も早く火薬を発明した所は中国であるとされる。中国の雲南省には、日本の龍勢のルーツと考えられるバンブーロケットが存在し、中国語で「放高昇」あるいは「高昇」などと表記される。(P46)」

 

「中国で発明された火薬が、爆竹などで本格的に利用されるようになったのは12世紀中頃だ。その頃から始まり、メコン川下流域に伝わっていったのだろう。(P71)」

 

「世界に目を移すと、バンブーロケットの二大流行地はメコン川流域と日本である。メコン川流域と日本の間は、4,000~5,000キロメートルの海陸を隔てているが、この間に伝播上の関係があるかどうかが問題である。考えられる事象としては、16,17世紀における山田長政に象徴される日本人の東南アジアでの活躍である。タイをはじめインドネシア半島の各地に日本人町が栄え、そのときバンブーロケットも伝えたという可能性がある。この可能性については、彼我のバンブーロケットとの共通的特徴の抽出にさらに務めていかなければならない。(P79)」

 

 

【秩父市とタイとの草の根ロケット交流】

平成9年(1997年)、旧吉田町(秩父市)では町民が「秩父吉田ヤソトン会」を作り、平成11年(1999年)には、秩父市とタイのヤソトン県は、姉妹都市提携を結びました。以降、タイとの草の根ロケット交流が続けられています。

 


◆「龍勢」の構造


◆アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』と「龍勢」

~埼玉県秩父市が舞台設定のモデル。「龍勢」をモデルにした花火は、物語の重要シーンで登場~

シネマトゥデイ YouTubeチャンネル「映画『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』特別先行映像」より

 

 

「龍勢」は、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)のストーリーの中で、重要シーンとなっています。

※第10話「花火」で、物語の登場人物たちが亡くなった親友の願いを叶えようと花火を打ち上げます。秩父の「龍勢祭り」はそのモデルになっているお祭りです。

 

 

~『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)について~

このアニメは、かつては仲良しだったのに、親友の死をきっかけにそれぞれが葛藤を抱えてバラバラになってしまった幼なじみの6人組が、亡くなった親友の出現により再会し、親友の願いを叶えようと思いをぶつけ合う中で、それぞれの葛藤を乗り越え絆を取り戻していく物語です。

物語は、全編を通して亡くなった人(親友や母)のやさしいまなざしで支えられています。

 

秘密基地で仲間たちと戯れた子ども時代、自然豊かなふるさとで遊んでいた記憶…等。子どもの頃、仲間たちとの遊びの中で誰もが感じていた大切なこと、大人になるにつれて自分でも気付かぬうちに心にフタをしていたかつての記憶が呼び起こされるどこか懐かしい作品になっています。

 

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このアニメはタイトルが長いので『あの花』と呼ばれ人気の作品になりました。

秩父市がモデルとなっていて、実在する建物、風景等が多く登場しています。アニメの聖地巡礼の一大ブームを呼んだ作品でもあります。 

秩父の「龍勢祭り」では毎年、『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』とコラボした「龍勢」が打ち上げられています。 

 


 

𠮷川照章様、このたびはありがとうございました。

『野外調査研究 第5号(通巻第30号)』を拝読して、國男氏の誠実なお人柄と、國男氏が野外調査研究会の皆様からいかに慕われていたかということを感じさせていただきました。

以前、國男氏とは、日本経済新聞に掲載されていた𠮷川國男氏の記事『豊穣祈る農民ロケット(2006年4月11日朝刊に掲載)』についてお話をさせていただいたことがあります。その時、國男氏はとても嬉しそうに、「龍勢」と同じような竹製のロケットが中国の雲南省やタイ、ラオスにもあることを教えてくださいました。

今回『日本の龍勢&世界のバンブーロケット』を拝読して、当時を思い出し、「龍勢」が世界規模で存在することにとても興味深く感じ、さらに学んでみたくなりました。

母の実家である秩父には、幼い頃から何度も訪問していたので、いただいたご本を読ませていただくことで、昔の風景がより一層心に染み入りました。このたびは本当にありがとうございました。