~“アウラ”を逆照射しながら新たな『かけがえのなさ』を出現させている彫刻アーティスト~
こだま芸術祭の最終日、アーティストの槙野 央(まきの ひさし)さんが戸谷八商店に来てくださいました。
槙野さんの作品は、「蔵髪(くらっぱ)」さんに展示されていました。本物そっくりの木工彫刻を制作なさっています。
◆「蔵髪(くらっぱ)」さん
「蔵髪(くらっぱ)」さんは、平成25年(2013年)にオープンされた美容室です。
もともと横浜で美容師をされていたオーナーのお二人が、結婚を機に、奥様の地元である本庄に移られた後、「本庄まちNET」の戸谷正夫さんにこの蔵を紹介してもらって美容室に改修されたそうです。
約160年もの歴史を持つ蔵の温かい雰囲気を残した、とても素敵な美容室です。
蔵の柱には、「安政3年棟上げ」という文字が記されているとのことです。(※安政3年は1856年です。)
【三好 由起さんの作品】
【槙野 央さんの作品】
ヤクルトや、ミルミルが本物そっくりで、驚きました。
槙野さんから、こだま芸術祭がすごくよかったとおっしゃっていただいてうれしかったです。
中山道・古い路地・商店街の懐かしい感じが芸術作品の背景となって一体化することで、同じ作品を観ても、美術館で展示されている作品とはまた違った味わいみたいなものが残るのかなと思いました。
◆「アウラの行方 槙野央の彫刻(吉岡まさみ)」
槙野央さんの作品パンフレットの中の、美術作家 吉岡まさみさんによる槙野さんの作品に関する紹介文がとても素晴らしいと思いました。
「槙野の興味は、本物に似せることではなく、本物に近づく手作業が素朴に楽しいというところにある。その途中経過が彼にとっては快く生きているという実感を伴った充足感なのであると思うのだ。」
「現代の複製技術の最たるものは3Dプリンターかも知れない。これはオリジナルとコピーの境界線を焼失させてしまうような勢いである。」
「しかし、槙野の作品はモチーフを完全にコピーしようとしているわけではない。あくまでもモチーフを愛玩しながら、目の前の事物と自分の関係を、彫り、塗る行為のなかで、自分の存在を確かめようとするものなのである。
その絶え間ない手作業とモチーフに注ぐ眼差しとが、コピーするという制作とは裏腹に、アウラを逆照射しながら新たな『かけがえのなさ』を出現させているといっていいだろう。
アウラの消失という問題に対して、槙野央の作品は、思いがけない方向から、その答えのひとつを提出するものなのである。」
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芸術作品で最も大切なものともいえるのは「アウラ」です。(「アウラ」はベンヤミンの言葉で、「ひとつしかない芸術作品の神聖性・かけがえのないもの」という意味です。)
複製技術の進化した現代において、この「アウラの消失」が大きな問題になっているといわれます。
槙野さんの作品は、主に工業製品をモチーフにしています。工業製品とそっくりなものを作る行為は、言わばコピーのコピーで、複製技術時代における「アウラの消失」の最たるものともいえます。
ところが、吉岡まさみさんは、槙野さんの場合、そのコピーする過程自体を楽しんでいる(槙野さんがモチーフに対してかけがえのない眼差しを注ぎ、手作業の過程を愛玩している)ことによって、「アウラを逆照射」していると述べられています。
素晴らしい洞察だと思いました。
「今、私の手元にモノが存在するということがどれだけ多くの人の意識と時間が働いて成り立っているのかとか、その存在をどのくらい認識できているのかとか考えますが、そこから問題として読み取ってもらえたり、楽しさを感じてもらうことができているでしょうか。こんな作品になっています。」(展覧会「2018 ART SALAD」槙野央さん紹介文)
槙野央さんは「ものが見えること・存在すること」その時間や・出来事・歴史・そのものへの意識の変遷まで含めて、楽しみながら感じようとなさっているところがとても魅力的な作家さんだと感じました。